『永山則夫 封印された鑑定記録』 堀川惠子 著

『永山則夫 封印された鑑定記録』 堀川惠子 著

『永山則夫 封印された鑑定記録』 堀川惠子 著

情報過多で迷ってしまうこんな時だからこそ、じっくり考えるために
2013年2月に、多摩棕櫚亭協会の初代理事長だった石川義博先生が『永山則夫、封印された鑑定記録(堀川恵子著・岩波書店・2,376円)』という本に深く関わり、当時はNHKでも放映されるなど大きな話題になりました。「相模原事件」の衝撃の中でさまざまな感情や意見が飛び交う今、改めてこの本を紹介したいと思います。

19歳の連続殺人犯永山則夫の第二次精神鑑定を行ったのが、石川義博先生だったというのは知る人ぞ知る話です。
1968年当時、永山則夫は高度成長にひた走る日本の負の部分である貧困そして生育暦からくる屈折した怒りから連続殺人犯となったと言われ、簡単な精神鑑定を経て死刑が確定しました。二度目の鑑定依頼に大いに迷いながら、それでも先生は彼の生育暦に強い関心を持ちこの仕事を引き受けることになったのですが、先生と彼の真剣なやり取りについては著者の堀川恵子さんというライターが100時間に及ぶ録音されたテープを紙に起こし蘇らせました。
カウンセリングを治療の基本にされる先生は、いつもの診療態度そのままに、じっくり話を聞き取り、背景や思いを語らせ、共感の姿勢を示します。幼児期の虐待が作り上げた心の闇によりそい、共感することで彼の情緒的なものの回復まで手を尽くします。
その後の彼が獄中で著作物を出版し印税を被害者に送る、加害者でもあった母をいたわる手紙を書くというまでに成長したのも、先生のこの時の鑑定のおかげと今でも大きく評価されています。

40年近く前の事件と今回の事件を比べると無差別ではなく、特定の弱者に的を絞っている点、貧困、虐待という背景よりも、ヘイトスピーチや差別意識が前提であることなど時代の移り変わりも感じます、しかし、社会が豊かになっている分、事態はさらに深刻で優生思想は人々の間に根強く残り、一皮向けば精神障害者は役に立たない、危ない存在だという感情もじわじわ広がってきそうです。
すばやすぎる措置入院と、早すぎるといわれている退院の手続きをめぐってさまざまな論議がおこり、今後は精神鑑定の責任能力をめぐっての議論と死刑問題がまっています。国民感情から言えば極刑間違いなしと予想される中、もっともっといろいろな角度から考えなければいけない問題だと思います。
簡単な一時鑑定の後は死刑という流れが決まっていた永山事件でしっかりとじっくり犯罪当事者と向き合った先生の誠実な姿勢は、今でも私たちの胸をうちます。精神保健の遍歴や職業人としてのありようなど、私たちか学ぶべきものをこの本は沢山提示してくれています。情報過多でいったい何をどう考えればいいか迷ってしまうこんな時だからこそ、じっくり考えるためにもこの本をご一読してみてください。

※ 2013年 賛助会通信「はれのちくもり」に載せたものを一部修正加筆したものです

社会福祉法人多摩棕櫚亭協会
理事長 天野聖子

『永山則夫 封印された鑑定記録』
堀川 惠子 著

岩波書店


https://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?isbn=ISBN978-4-00-024169-4