漫画『はれのちくもり -ピアス物語- 』

漫画『はれのちくもり -ピアス物語- 』

漫画『はれのちくもり -ピアス物語- 』

この漫画『はれのちくもり』の理解のために
精神病、この独特の言葉の響きに圧倒され翻弄されてきたのは、もちろん病気になった本人、そして家族。日本は発病したら入院という隔離政策をとってきたために、病気は治っても社会に出られないという人を沢山作ってしまった。30年も40年も入院したまま亡くなっていった人達の悲惨な歴史を私たちの社会はまだ清算できないでいる……

今また景気回復に向かっている社会の流れの中でようやく(病院から地域へ)という言葉が受け入れられるようになってきた。共同作業所や授産施設、ホームなどが各地に作られ、少しは暮らしやすくなったし、そういう支えがあれば再発しないで地域で暮らせるようになってきた。それでも精神障害者は働けない、無理をすると悪くなるから仕事はご法度という定説が医者、家族そして関係者に根強くある。病気からの回復が職場復帰につながるという世間一般の流れとかけ離れたまま、仕事に就くことを断念させられているのが現状だ。 しかし彼らの働きたいという希望はとても強い。あきらめたくない、何とかして自分の力で生きていたいという思いは切実だ。

私たちは20年前に共同作業所を作り 3つの作業所の後にピアスをたちあげた。みんなの希望を受け止めて(働きたいを働ける)ようにしていこうと、やってきた。就労支援のプロセスが言葉の回復、生きる喜びにつながるような膨らみを持っていたいと願ってきたが 気づいてみると。彼らの方が一歩も二歩も先に行っていて、成長変化を繰り返していた。

それなりの働き方をしながら、メールを交換しあいブログを作り、小説を書き、バンドを組むなど、いろいろな表現をしていく彼らは日々雄弁になって行く。(働けるということが奇跡で、毎日目覚めると嬉しくて・・)(給料で先生にお菓子を買って行ったら感動されちゃったよ)(緊張しっぱなしで一日終わるから単純な仕事でもすごい達成感がある)そんなふうに言う人達の笑顔と輝きは、本当に美しい。それは閉塞間の強まっているこの世の中で、無表情 無気力になっていく人々のあり方とはある種対極にあって、逆にここから何か発信が出来るかもしれない。そんな嬉しい予感の中で私達はこの活動を世に出したいと決意した。

この物語は 幻覚妄想の果てに、入院した若者が出逢った長期入院の友人が、ほどなく入院中に死亡する。病院しか居場所がなかった彼の無念の思いを受け止めた主人公が、ピアスのトレーニングを経て就職してゆく。そこに至るまでの失敗と挫折、家族の悲哀と不安支える仲間と友情のドラマ・・これは、傷ついた心の再生と復活の物語で、ほとんど実話に基づいたフィクションである。

1人の成功が10人の成功にそして100人の感動に・・病気があってもあきらめない、美しく生きていけるというそんなメッセージを送りたい。

社会福祉法人多摩棕櫚亭協会
理事長 天野聖子

書評
『はれのちくもり』は、精神障害者リハビリテーションと、コミック(日本が世界に誇る文化である)の、本邦初のコラボレーションとみた。ストーリーは、病院で暴れ回っていた悩み多き青年が、ピアスを利用するようになり、徐々に働くことに目覚めていく。その過程でさまざまな人が登場し、物語が展開していくという構成になっている。

漫画だから気軽に読める。気軽に読めるからといって、中身の軽いものではない。精神障害を抱えた人たちの、悶えや、叫びや、ため息や、歓喜などで充ち満ちている。

その中でも、作中の「ヤンさん」の台詞がたまらない。

「ボクの知っている人みんな言うね。病院も病気もキライだって。タバコ一本、ジュース一本、ゴハン一杯にケンカしながら死んでいったネ。ボクその人たちのコト忘れないために絵を描くね。死んでいった人たちのたましいを守るためにね。キミカベけるのもうやめるね。カベの向こう側で生きるコト考えるね。そしてボクキミのこと守るね」

こういう台詞は、精神障害者の生活の実態を身に染みてわかっている人しか言えない台詞だ。これは、実在する方がモデルになっていると作者から聞いた。この作品には、本当のこととコミックとしての虚構とがうまく解け合った世界になっている。

2006年9月30日、出版記念パーティーが、作中に出てくるピアスで開かれた。七十人もが集まって祝った。バベットしもじょうさんと、スタッフのインタビューコーナーというのがあった(この作品を元として音楽をバックに朗読する狂歌絶叫なるステージもあった)。この作品を世に出された形に仕上げるのには、三年かかったという。最終シーンの台詞は、最後の最後まで議論が重ねられて、出版直前に大きく修正されたりもしている。それほどに、力も気もこもっている。その波動を感度のいい読者は、感じ取ることだろう。

これまで精神障害のある人が主人公で、そのリハビリテーションをテーマにしたコミック作品というのは、日本でも外国でもほとんど無かったのではないか(私は知らない)。これを機会に、精神障害者リハビリテーションを物語るコミック作品が溢れ出てくるのを期待している。その意味でも、これは後世に、扉を開いた画期的、歴史的作品として評価されるようになるかも知れない。

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漫画『はれのちくもり – ピアス物語 -』を、多摩棕櫚亭協会からご購入の方に、当協会が編集した『精神障害者の就労支援ノウハウの為の調査研究』報告書を進呈いたします。