相模原殺傷事件から1年~何が変わったのか・・・~

法人本部 2017/07/28

相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者19人が刺殺、27人が負傷するという事件が起きてから1年が過経ちました。ご遺族、施設関係者の方々、そして何より被害に遭われた当事者の皆さんの事を思うと、どんな一年を過ごされたのか心が痛みます。そして、亡くなられた19人のご冥福を改めて祈らずにはいられません。

さて、死傷者合わせれば46人という戦後最悪の犠牲者を出したこの事件、発生当初は「とんでもない事が起こってしまった…」と、えも言われぬ恐怖感に襲われた事を思い出します。犯人が発したという「障害者はいなくなればいい」という言葉は、「精神障害者の幸せ実現」を目指し、活動を続けてきた私達を、大いに傷つけるものでした。自分たちが確信を持ちながら歩み続けてきた道の足元は、この様にも脆く危ういものであったのだと痛感させられもしました。

それから一年、この事件をきっかけに何か変わったのだろうか?と考えてみます。国ではこの事件を踏まえ、精神保健福祉法改正の議論がされました。しかし議論の中身は、犯人が事件前に措置入院をしていた事から、「措置入院制度の強化とその後のフォロー体制作り」に終始されました。しかし、今回の事件は、精神科医療の不備だけで起きたのかと言えば、そうではありません。この流れで措置入院が強化されていく事は、これまで積み上げてきた「病院から地域へ」の流れや、自発的入院の推進から大きく後退をします。また、フォロー体制作りについても、ご本人が望むものでなければ、ただの地域管理になってしまうでしょう。事件の再発防止を押し付けるかの様に行われたこの改正には、様々な危険が潜んでいると思います。

先日テレビを見ていたら、「何も変わらない一年だった。」というご遺族の言葉が紹介されました。確かに、具体的な手立てがないまま、弱者をバッシングする世の中の風潮は、さらに増していくように感じます。また、年明けになったこの事件の裁判では、被害者の名前は一切明かされない事が決まり、盛んに議論された匿名性の問題についても結局そのままになっています。その他、「開かれた施設とセキュリティーの問題」「過酷な福祉現場とそこから出てくる職員の本音」など、この事件は私達の目の前に様々な矛盾を突き付けました。

ある映画監督がこんな事を言っていました。「どんな事件にも、特異性と普遍性がある。」と… 最初はその特異性に目がいったこの事件ですが、時間が経つとそれは犯人の中にある特異なものではなく、私達の中にもある普遍的なものなのだという事に気が付きます。そしてそれは、なかなか解決し難い課題を、たくさん抱えたものでもあります。でも、議論し続ける事、考え続ける事が大切なのだと思っています。棕櫚亭でもこの問題を考え、分らないなりも自分たちの思いを発信し続けたいと思います。

棕櫚亭が開所してから30年が経ちました。精神障害者の方々を取り巻く状況は、病院に収容されるだけの時代から、地域で当たり前に暮らす時代を経て、社会に出て働くことが出来る時代へと変化しました。ですから、ここまで来た歩みを止めることなく、やはり「開かれた組織」であり続けたいと思います。そして、一人でも多く方の「幸せ実現」のお手伝いが出来ればと思っています。

多摩棕櫚亭協会 理事長 小林由美子

 

 

 

 

 

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