《最終回》 『往復書簡 1 – 櫻井博 と 荒木浩』 Part ⑯ “半年の往復書簡を振り返って 対談編”

法人本部 2018/05/31

往復書簡 01 荒木浩と櫻井博

往復書簡を終えるにあたって

半年にわたってお届けいたしました「往復書簡」も、今回の「対談編」でいったんの区切りをつけさせて頂く事になりました。お読みいただいた方、お声かけいただいた方、本当にうれしい気持ちで一杯です。あまりに多くの方が声をかけてくれるので恥ずかしさ半分の複雑な感情も私たちにはあります。

うしろ髪をひかれる思い(笑)で、今回の幕引きをしなければならないのですが、締めるにあたって二人で話したことを文字におこしてみました。「対談」とはいうもののこの先の文章は、ある意味、私たち二人のささやかな共同決意表明でもあります。ここまできたら、最後まで辛抱してお付き合いくださるとうれしいです。

このような時代、もっと考えていきたい! 発言していきたい!

今回、法人のホームページといういわば公の場での書簡となりましたが、あくまでも二人の個人的な意見なので、たくさんの「異論」はあったかと思います。それは、私たちのねらいでもありました。「異論を巻き起こす」つまり往復書簡を読んで心に引っかかりを感じたり、ちょっとした違和感を覚えたり、少しでも考えたりしていただければ嬉しいと二人で考えていました。

今の時代、つまり、テレビ、インターネット、SNSといった情報媒体が社会の中で猛威を振るってくると、「情報を知っている」ことこそが大きな価値であるという考えに、私たちは陥りがちです。更にその結果として、「考える」という意識が希薄になってくることも往々にしてあります。

例えば、最近話題のN大学のアメフト部の危険タックルの問題など、テレビでは連日連夜放送されています(もしかしたら、この記事をUPしたときには下火になっているのかもしれませんが)。繰り返し流される映像を見て、「知っているけれど、あれはひどい」「あれはスポーツではない」などの意見が出るでしょう。それは私たちも同じです。結果的に「N大学への批判感情」も声としてあがってくるのも仕方のないことかもしれません。これは世論の大勢を占める意見になっているのだという印象があります。

しかし感情的なことばかりで意見を言っても、一向に物事の本質が見えてこない、前向きにものごとがすすまないという話を二人でしました。

荒木:櫻井さん、それにしても最近のニュースは、どのチャンネルを見てもN大アメリカンフットボールのラフプレーネタばかりですね。スポーツ好きの櫻井さんは、怒りが止まらないのではないですか?

櫻井:勿論、あのタックルはスポーツとしてあり得ない出来事ですね。暴力的でもあり、あってはならないことだと思います。しかし、その後、危険行為をした選手が記者会見で謝罪した映像を見て、彼には今後の長い人生につなげてほしいなぁとも思いました。

荒木:なるほど、そうですね。確かに起こったことはもう取り消せないので、彼自身が将来に生かしていく、彼を支援するという視点は大切ですね。しかし、そういう意味で大学や関係者の対応は最悪でしたね。

櫻井:確かに最悪だと思いました。選手個人がカメラにさらされる中、大きな組織が守ってくれないということには憤りを感じました。と同時に、今回の出来事から、ほかの教育の現場や組織が、もう少し大きな声をあげても良いとも感じました。つまり、N大の問題という枠を超えて、大学機関が今回の出来事を受けて、問題点を明らかにし、将来に向けてそれを提起をしても良いのではないかと思いました。

荒木:なるほど。教育の現場が、子どもを守らず、きちんと物事を筋道立てて説明せず、まるで企業防衛的な発言ばかりを繰り返したことが大きな問題だということですね。問題があると言えば、メディアの取り上げ方もそうだとも思うのですが…

櫻井:起こった出来事の表面ばかりを繰り返して報道されるメディア情報も、私たちのニーズからきていると考えると、結局、私たちの意識も変えなければいけないのかなぁとも感じます。気をつけてメディアと付き合わなければ「考える」という行為を妨害されているような気持ちに、私などはなってしまうのです。

確かに、身近にいろいろな情報が手に入るこの時代は、ある意味風通しが良いという面をもっています。しかし、情報を、右から左に流すのではなく、一度せき止めて、「問題の本質を考えること」や「今後問題をどのように生かすか」といった視点で考えたいという話を二人でしました。そして、いろんな角度で発言できるようになりたいとも話しました。

当事者を意識して社会をみていきたい! 発言していきたい!

先ほどメディアの取り上げ方の問題にふれたとおり、私たちのニーズ、つまり、私たちの興味の方向にメディアは向いています。このことを考えると、例えば原発の問題などが取り上げられなくなってきたことは、メディアだけの問題だけではなく、私たちの興味関心が薄れてしまったことの表れだという話もしました。何かあるとワーッと報道され、人々が口にする単語。「東日本大震災」「福島第一原発」「メルトダウン」「大熊町」「マイクロシーベルト」等、沢山の単語が瞬間的に飛び交いますが、やがて意識の中から消えていきます。忘れるという行為を繰り返していくのが人なのかもしれませんが、それではいけないという反省を二人でしました。

荒木:精神保健の現場で働いている者として、この分野に常に関心を持っていなければいけないことは当たり前なのだけれども、櫻井さんは新聞をよく読んで勉強していますね。見習わなければ。

櫻井:昔からの癖が抜けないという感じがありますが、体調によっては集中力がもたないことがあります。どうしてもネットニュースではなく、新聞ということになりますが、新聞各社によって同じ記事の取り上げ方でも違う意見だったりするのは興味深いです。

荒木:なるほど、東日本大震災直後の原発問題に対する報道姿勢は福島県民の立場に立つと…いうような論調で概ね同じような論説が並んでいましたが、その原発の延長線上にあるエネルギー政策に対する考え方は「危険な原発はいらない」「資源のない日本に(安全な)原発は必要」などと意見が分かれているようです。

櫻井:「当事者(福島県民)の立場に立つと…」という視点は大切だと思うのですが、こういった議論が続く中で、いつの間にか当事者ということがすっかり置き去りにされてしまうことがありますよね。そして「当事者の立場に立つと…」という枕詞は、注意して見聞きしなければいけない言葉で、感情を煽(あお)るような使い方をされるような気がします。

荒木:ありがとうございます。以前の往復書簡の中で、少しそのようなことを私は書きましたね。「私は(精神障がい)当事者ではないが、できる限り当事者に思いを馳せられるようにはなりたい」と。なかなかエラそうなことを書いてしまいましたね。

ところでそうなると、私はいったい何の当事者なのだろうか?と考えました。その当事者の立場できちんと発言・行動できているだろうかと反省しました。

櫻井:私は、今後も精神障がい当事者として発信していくことは勿論ですが、例えば、年老いた父と生活する子という当事者の立場で、高齢者福祉のこと等たくさん語ってもよいのだとも思いました。

この文章を読んでいる皆さんはどのように考えましたか?二人で話をしたのは、病気とか障がいだとかに限らず、私たち誰もがいろんな形でなんだかの当事者として存在しているのではないかということです。そうでなくては社会のあらゆる問題を知る・考える必然性はありませんし、そんな新聞やニュースに触れる必要はありませんよね。
ただし、少しだけ気をつけなければいけないのは、自分がその当事者として立場(主観)で考えているのか、当事者に寄り添いたい(客観)と考えてなのか、きちんと区別することかもしれませんね。境界は難しいのですが。

書簡を通じてコミュニケーションの楽しさを知る

この半年間書簡を通して、二人でいくつかの話題を話してみました。お互いの考えの一致する点・全く異なる点、はたまた感心する点等、いわゆる普段の職場だけの関係では語りつくせなかったことが、書簡というツールを通じて交わせたような気がします。そして、コミュニケーションの楽しさに改めて感じ入ることができました。

じっくりと書き込むという「書簡の醍醐味を味わった」といったところでしょうか。

勿論、代償として自宅で遅くまでパソコンと向き合わなければいけなくなってしまいましたが…

そして、この書簡は、思わぬ形で読者の方々とのコミュニケーションにもつながったような気がします。はじめにも書きましたが、たくさんの方々にお声かけいただき、会話のきっかけにさせていただきました。

本当に感謝したいと思います。

荒木:今回、このような場で、言いたい放題させてもらえてけれど、楽しかったですね。

櫻井:疲れたけれど、心地よい疲れみたいな感じですね。「コミュニケーション」ってこういう感じなのでしょうかね。

荒木:ウーン。確かに、書くことには責任も生れるし、心の開放だけではありませんよね。

櫻井:でも楽しかった。このくらいのやり取り(コミュニケーション)で言いたいことがすべて伝えられるわけでもないですけれども。まぁ、それでも自分たちの意見が率直に言えるようなそんな社会にしたいなぁと思いました。ちょっと大げさかなぁ。

二人:(笑)

2018年5月吉日
多摩棕櫚亭協会 本部にて

櫻井博 と 荒木浩

荒木浩 と 櫻井博

 

最後に

読者のみなさんにはお付き合いいただき、重ねてお礼申し上げます。

そして、写真撮影などにお力添えいただいた、アーガイルデザインの宮良さんにも感謝申し上げます。

「またエネルギーがたまったら書簡やってみますか?」

「やらせてもらえますかね?」

「本当は当分そんな気持ちにはならないでしょう?今はね!(大笑)」

(了)

 

「手紙」を交わすふたり

櫻井 博

1959年生 57歳 / 社会福祉法人多摩棕櫚亭協会 当事者スタッフ(ピアスタッフ)

大学卒業後、職を転々としながら、2006年棕櫚亭とであい、当時作業所であった棕櫚亭Ⅰに利用者として通う。

・2013年   精神保健福祉士資格取得
・2013年5月  週3日の非常勤
・2017年9月  常勤(現在、棕櫚亭グループ、なびぃ & ピアス & 本部兼務)

荒木 浩

1969年生 48歳 / 社会福祉法人多摩棕櫚亭協会 ピアス 副施設長

福岡県北九州市生れ。大学受験で失敗し、失意のうち上京。新聞奨学生をしながら一浪したが、ろくに勉強もせず、かろうじて大学に入学。3年終了時に大学の掲示板に貼っていた棕櫚亭求人に応募、常勤職員として就職。社会はバブルが弾けとんだ直後であったが、当時の棕櫚亭は利用者による二次面接も行なっていたという程、一面のんきな時代ではあった。
以来棕櫚亭一筋で、精神障害者共同作業所 棕櫚亭Ⅰ・Ⅱ、トゥリニテ、精神障害者通所授産施設(現就労移行支援事業)ピアス、地域活動センターなびぃ、法人本部など勤務地を転々と変わり、現在は生活訓練事業で主に働いている。

・2000年   精神保健福祉士資格取得

もくじ

 

Photography: ©宮良当明 / Argyle Design Limited

6月の予定をお知らせします【絵画展やります!】

棕櫚亭Ⅰ 2018/05/28

 

歓送迎会や大掃除などばたばたとした一か月も過ぎ、あっという間に6月も目前となりました。

6月は、毎年恒例『絵画展』を行います(^O^)
毎年ピアスⅡで行っていたのですが、今年は「国立市社会福祉協議会さんが入っている福祉会館」をお借りすることになりました!
チラシが完成次第またお知らせさせていただきます(*^_^*)

写真は去年の絵画展の様子です!
HP用⑨ HP用②

今年度も力作ぞろいの予定なのでたのしみにしていてください(^^)/

ひとまず6月の予定をお知らせします♪

6月の予定表はこちら→6月月間予定表

 

 

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【お詫び】往復書簡最終稿は5月31日公開です

法人本部 2018/05/27

いつも往復書簡をお読みいただきありがとうございます。

5月30日公開予定していた最終稿ですが、業務の都合により遅れています。申し訳ありません。

5月31日公開を目指して鋭意準備中です。今しばらくお待ち下さい。

櫻井 博 ・ 荒木 浩

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職員研修 映画上映会を行いました!

研修会 2018/05/23

5月16日(水)に職員研修として映画上映会を行いました。映画は、「さとにきたらええやん」です。

この映画の中の「さと」は子ども、障がい者、高齢者‥という分け方を超えて、地域全体を包み込みながら自然に支え合う場になっています。支援はこういう形もあるのだということを気づかせてくれます。私は、この映画を棕櫚亭の職員にぜひ観てもらいたいと思いました。また、この機会に近隣の福祉系施設の職員の方にも観ていただき、交流の場にできればと思い、一緒に観た前理事長の天野さんと企画を提案させていただきました。

法人内で手分けして近隣の施設へお知らせをし、結果的に26名もの方が参加されました。法人内からは24名の参加があり、2Fいっぱいを使ってにぎやかな会になりました。

当日は、職員の協力で軽食用のおにぎりも作り、参加した方に食べていただいて和気あいあいとした雰囲気。上映中も観ている方がどんどん映画に引き込まれていく感があり、さすが対人援助に関わる人の集まりだなと、うれしくなりました。

上映後、参加していただいた方からは、「参加できてよかった」、「これを刺激に自分の支援の形を考えて行く良い機会にしたい」、「この映画を観て感じたことを職場にも持ち帰り共有したい」、また、この場を設けたことへの感謝の言葉もいただきました。私は、開催できてよかったと思いましたし、感謝の気持ちでいっぱいになりました。これで終わることなく、近隣の方たちとの交流の場を継続的に持ちたいと思いました。

参加されたみなさま、ありがとうございました。

ピアス 増田 静枝

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賛助会通信「はれのちくもり」平成30年5月号発行しました

法人本部 2018/05/23

多摩棕櫚亭協会 賛助会通信「はれのちくもり」第99号(平成30年5月号)を発行しました。

賛助会通信30年5月号

主な内容は

  • 新年度のご挨拶
  • 法人報告会のお知らせ(6月23日)
  • 地域貢献
  • 各施設のご紹介、予定

です。是非ご覧ください。

また、賛助会へのご入会につきましては、こちらのページをご覧ください。

賛助会へのご入会

【報告】フリマに出店しました

なびぃ 2018/05/22

H300512n-フリマ000去る5月12日(土)に、むっさ21(富士見台商店街)のフリマに出店しました。

メンバーさんと一緒に、なにか貢献できることをやりたいねと始めたこのイベントは、毎回、売り上げを全額寄付することにしています。このところは東日本大震災の復興支援金に寄付することが多いです。日本赤十字社ではこの3月で東北への義援金は締め切ったそうですが、原発の問題も大きくまだまだ復興は進んでいないと聞いていますので、なびぃでは引き続き応援していきます。ささやかではありますが、この年に2回のフリマを通じて、繋がっていたいなと思っています。

フリマの商品は、なびぃに在庫を置くスペースがほとんどないので、その都度、棕櫚亭職員や関係者に声をかけて集めます。ときには近隣の関係機関さんにも声をかけます。使わなくなったものをまた誰かが使うという、リサイクルという意味でも、環境に貢献できることですよね。メンバーさんの中には、手作りが得意で、中には商品としてお店に卸している方もいるので、その品物を提供して売り上げに協力してくれる方もいます。

前日に、メンバーさんと品物を広げて品定めしながら準備をして、当日はお向かいの商店街まで、台車やハンガーラックをガラガラと押しながら運んでいきます。毎月開催されるこのフリマのとりまとめ役である時計屋さんからは「11:00になるまで販売しないように!」と言い渡されていますが、決められた場所に段ボールを置いたとたん、待ってましたとお客さんが段ボールをのぞき込み、その瞬間から次から次へ売れ始め・・・心の準備ができないまま開店です。最初は緊張していたメンバーさんも、気づけばお客さんと値段交渉。「おまけしてよ!」の声に負けないように「しゅろっていのチャリティフリマでーす!」と宣伝しながら、ひとつでも多く売れるようにおすすめします。H300512n-フリマ002

14:00までの開店で、今回の売り上げは、17,210円なり!

残った商品をまとめ、のぼりをしまい、なびぃに戻って冷たい飲み物を飲みながら、みんなで売り上げを数える時間は、お楽しみのひととき。達成感を共有します。どこかの誰かの役に立つといいなと願いながら。

さあ次回も、売りますよ~!

ご協力いただいたみなさま、お買い上げいただいたお客さま、本当にありがとうございました。次回の出店の際にはまたお知らせします!

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【再掲示】SSKP はれのちくもり 別冊ピアス通信23号を発行しました

ピアス 2018/05/18

SSKP はれのちくもり 別冊ピアス通信23号を発行しました。

ピアス通信23号

今号の記事内容は・・・

  • 平成29年度デイ合宿(昨年度の総括)について
  • コラム:1「障害者雇用の未来を考える」-Keyword:ベーシックインカム―
  • コラム:2「国立市内の喫茶店紹介」

となっています。ぜひご覧ください。

<お詫び>

5/15公開時は、ピアス通信23号のリンク先が未貼付となっていました。

訂正いたしましたので、ぜひご覧ください。

歓送迎会を行いました☆

棕櫚亭Ⅰ 2018/05/11

 

先日、歓送迎会を行いました(^^)/
午前中のうちから部屋の装飾とご飯作りをしました!

HP用①

 

 

 

 

この日のメニューは、あんかけチャーハン・マカロニサラダ・からあげ・デザートです(^O^)♪
お料理の杉田先生に教えていただき、楽しみながらおいしいお料理を作りました!

HP用④

 

 

 

 

最後にフルーツの横には、チョコシロップのかかったアイスをトッピングして、贅沢なデザートになりました♪

準備ができたら会の始まりです!

メンバーさんの出し物と職員の出し物を披露し、プレゼントの贈呈をしました(^^)/

今年度、なびぃとピアスに異動されたお二人の職員さんにはお花とアルバムを

HP用②

HP用⑤

今年度からいらした職員さんにはコップをプレゼントしました(^O^)!

HP用③

 

 

 

お花の色選びやコップ選び、アルバムのデコレーションまでメンバーさんが主体となった、心のこもったプレゼントでした(*^_^*)♪

新しい職員も新しいメンバーさんも加わり、新体制の棕櫚亭Ⅰを今年度もどうぞよろしくお願いいたしますm(__)m

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『往復書簡 1 – 櫻井博 と 荒木浩』 Part ⑮ “棕櫚亭の理念を担う-櫻井 博からの手紙”

法人本部 2018/05/09

往復書簡 01 荒木浩と櫻井博

棕櫚亭の理念を担う

前略
荒木 浩 さま

半年にわたり、手紙をよんでいただいてありがとうございます。今回が最後になるのですね。最後に大きなテーマをいただき考えましたがうまく答えられないかもしれません。
今これを書いているのが連休まっただ中の自宅です。職場で書くことは認められてますし、ほとんどそうしてきました。今回は振り返る意味も含めゆっくり書いています。

往復書簡 01 荒木浩と櫻井博

櫻井 博

棕櫚亭の理念を担う

棕櫚亭の理念として、「精神障害者の幸せ実現」という大きな目標があります。荒木さんから問われた「なにを担ってくれるか」という問いにこたえるとすれば、法人に関するすべての仕事だと思います。

本当の事を言いますと、電話相談でもプログラムの活動でも高齢者配食でも、その活動が理念のどの部分がどういうふうにあてはまるかはわかりません。仕事として全力投球でやることによってそれがやがて理念として幸せ実現に向かえばと考えています。

棕櫚亭にメンバーとして入り、2回の入院を経て、いろいろな方との出会いがあり、棕櫚亭の魅力にひかれ、精神保健福祉士の資格を取り、週3日から始まった障害者雇用での採用でしたが、自分の中では健常者と障害者の境界は、気持ちのなかではありませんでした。

確かに病気をによる障害はありますが、それを意識しないよう努めました。

精神障害者の雇用率が上がり、一般での雇用は増えてきました。様々の分野に雇用の場は広がっています。荒木さんの手紙でも健常者と障害者の境界(ボーダー)は引けないと返事をいただきました。書簡を通じて境界を引いているのは自分のほうではないかと気が付きました。もともと境界をひけないことの多い社会のなかで、境界をひこうと思い、被害的になったり不安になったりすることは、そのできない境界に怯えているのではないかと思いました。、この半年間往復書簡を通じて荒木さんとの認識の違いでは、自分には多様性をもつことがすくなかったことも得た一つの教訓です。荒木さんの考える多様性に注目しずいぶん自分の思い込みも意識されました。

なぜ棕櫚亭を就職先に選んだか?

私が棕櫚亭を勤務先に選んだのも、そういう多様的な見方や考え方が仕事に許されているからです。荒木さんとの書簡で自分が気づいたこともたくさんありました。境界という考えをもたないほうが働くにはいいということも最後に気づいたことでした。それは回りから合理的配慮してもらうこととは違います。職員としてもつ立ち位置的なものです。

天野前理事長と始めた当事者活動

私は棕櫚亭に入職して天野前理事長とSPJ(棕櫚亭ピア事務局)という当事者の活動をはじめました。構成メンバーは主にオープナーの方が多いです。そこで話された事柄は秘密保持で他では話していけないというルールがあります。私はここで発言することで自分の不安感とか恐れる気持ちを解消しています。これはおそらく障害者というレッテルを「はがそうはがそう」という努力にも似ています。障害者だからこう見られているのではないかということを語りながら、うなずいているメンバーさんをみて安心します。他の方はどうかわかりませんが私の場合はこの茶話会に参加することで、また一週間がんばろうという気持ちになれます。

ここは障害当事者が集まっているという意味ではボーダーレスです。

こういうふうに考えると、境界とは社会の側からは都合よく考えられた言葉で、自分の気持ちのなかでそれを取り除けばとも思います。
荒木さんが「往復書簡の初め」で書いていたとおり、「障害者がリハビリして社会にでていけば私たちの仕事はなくなる」という考えもあったということでした。
でも現実に仕事をしていると、それも不可能だし、専門性の高いワーカーも必要です。その点では荒木さんと意見が一致しています。精神の福祉の分野では障害のない職員がメジャーで当事者スタッフはまだまだ少数です。いくら当事者に追い風が吹いているからといって力の差はあります。今年の5月で雇用されて5年たちますが、当事者性を追い求めて、特色のあるメンバーさんとの関わりを持とうという姿勢はかわりません。職場の上司にはピアスタッフだからできる仕事をしてほしいと言われています。でも私は雇っていただいたからには、なんでもやるつもりでいます。そこから多様性が許されている「棕櫚亭の精神障害にある方の幸せ実現」にすこしでもお役に立てればという思いがあります。
もちろん卓球も一生懸命やります(笑)

荒木さんの手紙で効率性を追い求める社会というのが、それだけではなく無駄もあってもいいと書かれているのを読んで、人間の幸せって無駄にあるものかと思いをよせました。
効率性を求める現代社会も福祉の分野ともうっすらボーダーが引けるのかもしれません。
そんな思いをもったのも、長い間企業にいたという経験があるからかもしれません。

でもそこに境界を引くつもりは今はありません。

最後に

半年の間ホームページにアクセスして読んでいただいた皆様にも感謝しています。
拙い文章で気持ちが伝わったかわかりませんが、境界線を探った結果を自分なりに書かせていただき最後にしたいと思います。

草々

櫻井 博

※いつも「往復書簡」読んでいただきありがとうございます。

手紙でのやり取りは、この号で終了となります。半年にわたりありがとうございました。3週間後の5月30日にスピンオフで「対談編」を上梓して「往復書簡」は完全終了になります。

この5月という時期があまりに忙しすぎて二人で話す時間がないのです。しばしお待ち下さい。本当にごめんなさい。

櫻井 博 & 荒木 浩

「手紙」を交わすふたり

櫻井 博

1959年生 57歳 / 社会福祉法人多摩棕櫚亭協会 当事者スタッフ(ピアスタッフ)

大学卒業後、職を転々としながら、2006年棕櫚亭とであい、当時作業所であった棕櫚亭Ⅰに利用者として通う。

・2013年   精神保健福祉士資格取得
・2013年5月  週3日の非常勤
・2017年9月  常勤(現在、棕櫚亭グループ、なびぃ & ピアス & 本部兼務)

荒木 浩

1969年生 48歳 / 社会福祉法人多摩棕櫚亭協会 ピアス 副施設長

福岡県北九州市生れ。大学受験で失敗し、失意のうち上京。新聞奨学生をしながら一浪したが、ろくに勉強もせず、かろうじて大学に入学。3年終了時に大学の掲示板に貼っていた棕櫚亭求人に応募、常勤職員として就職。社会はバブルが弾けとんだ直後であったが、当時の棕櫚亭は利用者による二次面接も行なっていたという程、一面のんきな時代ではあった。
以来棕櫚亭一筋で、精神障害者共同作業所 棕櫚亭Ⅰ・Ⅱ、トゥリニテ、精神障害者通所授産施設(現就労移行支援事業)ピアス、地域活動センターなびぃ、法人本部など勤務地を転々と変わり、現在は生活訓練事業で主に働いている。

・2000年   精神保健福祉士資格取得

もくじ

 

Photography: ©宮良当明 / Argyle Design Limited

OB会を開催しました!

ピアス 2018/05/02

ピアスOB会を開きました。実は今回3回目になります。
1回目(1/21)は、スタッフが作ったカレーライスを食べながら近況報告をし合い、久しぶりの再会を喜び合ったりしました。

2回目(3/3)は、食べたいものをみんなで作ろうと、集まってからメニューを決めました。メニューは、ぎょうざ、焼きそば、ホットケーキ…全部ホットプレートものという組み合わせになってしまいました。買い物からはじめて、久しぶりの厨房に入り、手分けして作ります。トレーニングの時の声を掛け合ってみんなで懐かしんで大笑い。近況も話しながら、作って食べてあっという間に楽しい時間は過ぎた気がしました。

3回目(4/21)はピザとティラミスというイタリアンな組合せ。ピザは粉からピザ生地を作りトッピングの具材をのせるという手作り感たっぷり。出来上がりはお店のピザにも負けないほどの本格的な仕上がりになりました。デザートのスイーツも手作りのティラミス。チーズもたっぷりの絶品の味にみんな笑顔で楽しい時間になりました。

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